ヴィットリオ・デ・シーカ「ミラノの奇蹟」1951年/伊

いやはや。この映画自体が奇蹟だった。面白すぎる。
ソルボンヌの脇にある映画館アッカトーネにて。ビデオ上映でしたが、上映に感謝。何年か前、フィルムセンターのイタリア映画祭へ観に行ったのだけど、満員で入れなかった時以来の機会。
見事なまでに音楽的なテンポを持った映画。と同時に、どのシーンの画面もまた見事に構成されていて、音楽家でも彫刻家でもあったようなデ・シーカの芸術におどろいた。
いま観ているものは美しさそのものとしか言いようがないな、と思うような時間が延々と続く。映っているのは、ひたすら貧乏人と掘建て小屋なのだけど。
主人公トトの粋な優しさが、うそみたいな冗談みたいな相当に皮肉もきいた夢物語をつくる。自分のカバンがほしいという人がいたらあげる。小さな人がいたら自分も小さくなる。腰の悪い人がいたら自分も腰を曲げる。顔が歪んだ人の前では自分も同じように歪んだ顔で挨拶。死にたくなった人がいたら、ラッララッラー♪と明るい歌を一緒に歌う。そんなトトのやさしさがどんどん大きくなって…。
一方で金持ちも出てくる。なんてモダンな会社をお持ちで、な社長。かなり皮肉っぽくやっているけど、ここだけでも気に入る人がいるかもしれない。
デ・シーカといえば「自転車泥棒」で、そっちが表、これは裏、というイメージが強い。でも「ミラノの奇蹟」のデ・シーカと言ったっておかしくない。今日は、映画を観る喜びは尽きないなあとしみじみ思いました。