リヴェットの映画『彼女たちの舞台』のなかで練習していた演劇はマリヴォーの『二重の不実』であることを知り、『愛と偶然の戯れ』(ルノワールが『ゲームの規則』を作った時に参考にした作品のひとつ)とともにさっそく手に入れて読みはじめたのだけど、これが難しい。なにせ書かれたのは18世紀も前半。ふふーんと軽く片手に電子辞書を叩きながら読むなんてわけにはいかない。本物の辞書をめくってじっくり向き合う時間が必要で、入門者向けの辞書(『プチ・ロワイヤル和仏辞典』)ではおいつかなければ、古い辞書(『スタンダード和佛辞典』)や分厚い辞書(『ロワイヤル仏和中辞典』)にあたることになる。苦労してドイツの文学作品を読んでた時のことを思い出す。でもあれに比べたらこんなもの、とも思う。ちっとも苦ではないどころか、とびきり贅沢な時間を過ごしているという自覚が伴っているものだから、こうして丁寧に読むこと自体大きな喜びになっている。もう翻訳には戻らないぞという覚悟で、先へ進もう。