フリッツ・ラング「怪人マブゼ博士」(「マブゼ博士の遺言」)1933年

原題は「Das Testament des Dr. Mabuse」。シネマテーク・フランセーズにて。初見。
フリッツ・ラングが第二次大戦前にドイツで最後に作った作品。もうラングにしてみればちょちょいのちょいという感じでできたのではないかと思えるほど軽やかなのに、ラング以外の誰にも絶対に作れなかったであろうめちゃくちゃな面白さでした。クライマックスなんてお手のものもいいところ。1928年の「スピオーネ」こそ観るたびカンペキと思ってたけど、こちらもかなりの完成度。これ以前の作品のゴテゴテがよくも悪くも全部抜け落ちて、かわりにトーキーの身軽さが存分に発揮されてほんとに痛快だった。
ラングはサイレントの時代に大変な天才を発揮した人ですが、1931年の「M」以降新しく手に入れた「音」の力によって作られた場面のどれもがまた創造の域に達しているのだからほんととんでもないです。この映画でも、冒頭の数分間映画を支配しているのは人の声をかき消す機械音だし、扉やカーテンの向こうから劇中何度も不気味に発せられる人の声の音質(実はレコードの音声)とその効果はたまらないものがあり、車のクラクションにより演出された場面なんて涙ものでした。
数年前にドイツで復元されたというフィルムの状態も素晴しく、価値ある復元作業に拍手。ラングのフィルムは人類の宝です。これは大げさでもなんでもない。
なかなか観られない作品ではありますが、観ていないラングがあることの幸せはいつまでとっておいても損はないでしょう。私も今日はほんとに幸せでした。しかもこの映画を観たことで、この後アメリカで撮ることになる映画とドイツ時代の作品との間に断絶ではなく連続性が見えてきて、そのことがまた嬉しかった。
http://de.wikipedia.org/wiki/Das_Testament_des_Dr._Mabuse_%281933%29
http://www.deutsches-filminstitut.de/caligari/dt2fcf0655.htm
http://www.celtoslavica.de/chiaroscuro/films/testamentm/testmab.html
ああやっぱり、映画はラング。そして映画はムルナウ。映画を観る時はいつも、右手にムルナウ、左手にラング、であります。涙。