ルネ・クレール「巴里の屋根の下」1930年/仏

原題は“Sous Les Toits De Paris”。
こんどこそあの歌を覚えるぞ!と思って観てまいりました。ここはまさしく巴里であるし、最後は大合唱なんてことにも?と期待しましたが、そこまでには至らず暖かい拍手で終わりました。
これはルネ・クレールのトーキー1作目。サイレントの幸せとトーキーの幸せとが同時にあるというとても素敵な映画です。トーキーになったことの幸せというのは、映画の流れを無遠慮に断ち切るスーパーインポーズとさよならできたということであって、音がついたからといって役者の口から台詞が山と出てくるなんて野暮な事態はここでは起こりません。クレールがやったのは、歌と自由自在なカメラの動きと巴里の街の素晴しいセットとで映画を1本作ることでした。サイレントへの愛情はたっぷりながら、新しい映画技術の可能性にも心を開いて挑んだ人たちが撮ったトーキー初期作品は、サイレント以上にサイレント映画らしく、若返ったように瑞々しい魅力に富んでいることが多いように思います。