ジャン=リュック・ゴダール『Eloge de l'amour』2001年/仏・スイス

邦題『愛の世紀』。JD先生のシネクラブにて。だんだんJD先生がジャバザハットに見えてきました…。
http://www.cinematheque.fr/fr/nosactivites/rencontresdebatslectures/jean-douchet.html
『愛の世紀』は東京の映画館でもDVDでも何度も観たけれど、熱狂しすぎて落ち着いて観られたためしがなかった。やっといくらか冷静になったところで、字幕の出ないスクリーン上の画面*1と、無音の上映室に深く響く音に出会い、よく理解されたのは、この映画がひどく快楽的であるその秘密はなにより音のモンタージュにあったのだということ。バラバラに録音された複数の音(画面に映る人の声、オフの声、屋外の騒音)が、画面のつなぎにただ従うのではなくて、かなり複雑に重ねあわされ、映画を先へと引っ張っているのは画ではなく音だとも言える作りになっている。その録音された音というのも、全くの無音のなかでくっきりと響く人の声(同時録音とは思えない音質なのに、画面に映った人の口の動きとぴったり合っているのが不思議でしょうがなかった)はもちろん、雑踏の音ひとつとっても、かなり丁寧に録られたと思われるもので、途中とぎれとぎれにぐわんと響き渡るECMの音楽や、モノクロ映像のシャープさや、溶岩みたにどろどろと溶け出した色に対して、音のひとつひとつが同じレベルで拮抗していて、とにかくものすごいことになっている、というのがこの『愛の世紀』という映画なのだった。これに体が震えずしてなにに震えるんだ、ということだ。

*1:字幕がついてるとそこにはっきりと読み取れるものだから、言葉のひとつひとつに反応するのに忙しくなり、それだけでもかなり面白い体験ではあるのだけど、言葉にいちいちとらわれていると、意識が映画から離れてしまって全体がとらえにくくなるというのが、ゴダールの映画のやっかいなところであり、何度でも楽しめる理由でもある。